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チェスは「マインドスポーツ」です。
お互いの精神を殴り合うボクシングのようなものです。
肉体を介さずむき出しの精神にダイレクトに作用するため、様々な心理的テクニックを応用することができます。

ってなわけで、最近素人向けの心理学の本を読んだ僕が、「あっ! これってチェスで使えるかも!」と思った心理学を紹介したいと思います。

メンタル 1 : チェスはプライドのへし折り合い

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チェスは野蛮で暴力的な「プライドのへし折り合い」です。 意識高い系のオシャレアイテムではありません。

勝った時は「この世界はとても美しく愛と笑顔に満ち溢れている!」といった感じで自分と世界が光り輝きます。
負けた時は「この世界は僕を見下している・・・僕を卑しい能無しのゴミクズだと嘲笑っている・・・見るな・・・見るんじゃねぇ!! てめぇら全員皆殺しだぁ!!」といった感じで自分と世界が血と暗黒に染まり、心が発狂を始めます。

ここでのポイントは、そういった感情を否定するのではなく冷静に正しく自覚することです。

心理学には「自己一致」という考え方があり、それは「『理想の自分』と『実際の自分』のズレが心の苦しみを生み出す」というものです。

「自分は紳士的で、負けても心からの笑顔を相手に向けられる」という「美しく素敵なアスリート」を自分の理想像にしてしまうと、実際に負けた時に自分の心に現れる「醜く薄汚い感情」に心をズタボロに傷つけられてしまいます。
しかし「自分は負けた時に醜い感情が沸き起こる」ということを自覚していれば、負けてそういう気持ちになった時に「まぁ、そういうもんだ。 チェスってのはそういうゲームだし。」ってな感じで短時間で立ち直ります。

余談ですが、僕はそういう「人間臭さ」というのがとても好きです。
僕は子供向けのアニメなどに出てくる「美しく素敵な心で満たされた登場人物」を見ると「作り物の人形」にしか見れません。 (でも好きな作品もあるよ。 「プリキュア」とか「ラブライブ」とか。)
逆に「ある程度醜く身勝手な心を持った登場人物」が出てくると、すごく感情移入してとても感動します。 (「ガンダム」とか「銃夢」とか)
お笑い番組でも芸人さん達の語る「人間のアホさあるある」で大爆笑します。

なのでチェスは 

  • プライドのへし折り合い
  • 沸き起こる醜い感情
  • 血と暗黒の世界
  • 発狂し蝕まれる精神

を楽しむゲームだと思うといいかもしれません。

メンタル 2 : 劣等コンプレックスはチェスの魂

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「劣等コンプレックス」というのは「劣等感」からくる様々な心の葛藤のことです。
そして人はこの「劣等コンプレックス」を克服するために勉強や研究、トレーニングなどで自身を鍛えてパワーアップします。
なので一見「悪」と思える「劣等感」は、実はチェスの上達に欠かせないとても大切なものだったりします。

しかし注意点があります。 それはその「劣等感」を「克服できないもの」と思ってしまうと「防衛機制」というのが働き、チェスをやめたり、チェスをディスったり、チェスのガチファンを罵ったりなどをしてしまいます。
(ちなみに「防衛機制」ってのは、「感じてはいけない感情」を感じた時に、それを意識から切り離して自分を保つための心の機能です。)

そういった「防衛機制」を避けるには以下のことを肝に銘じるといいと思います。

  • チェスは時間をかけて研究・トレーニングすれば必ず強くなれる。
  • 時間をかけて研究・トレーニングしていなければ弱いのは当たり前で、それはプレイヤーの才能のせいではない。
  • 実力の成長速度はそのプレイヤーの生活環境や人生経験、事前知識などが影響するため、遅くてもそれはプレイヤーの才能のせいではない。
  • 実力の成長速度はチェスの知識それ以外の知識の類推で向上できる。

チェスなどのゲームで「劣等コンプレックス」を克服することは「フラストレーション耐性」を身につけるためにとても有効です。
「フラストレーション耐性」とは困難な問題に直面した時に、どれだけそれに耐えて問題解決に頑張れるかの能力のことです。
チェスのような対戦ゲーム難易度の高いゲームなどで「フラストレーション耐性」を身に付ければ、生活や仕事で役に立つかもしれません。

薄暗い部屋の片隅で体育座りをして「オレはダメなやつだ・・・みんなオレを馬鹿にしている・・・」とブツブツつぶやく気持ちを大切にして、チェスの実力アップに役立ててみてはいかがでしょうか。

メンタル 3 : 精神ダメージのケア

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「メンタル 1 : チェスはプライドのへし折り合い」でも書いたとおり、負けると自分のプライドがへし折られます。
発狂しそうになるくらい大きな「精神ダメージ(ストレス)」を喰らいます。
そういった「精神ダメージ(ストレス)」は蓄積していくと毎日の生活が辛くなったり、世の中が面白くなくなったりしてしまいます。
なので、チェスをやる上で「精神ダメージ(ストレス)」のケアは大切です。

そこでいくつかの「僕が考える最強のケア」というものを提案します。

僕が考える最強のケア その 1

「対人戦は数日に一回、数試合にとどめる」

対人戦が最も精神ダメージが大きいトレーニングです。
これは上達には欠かせませんが、過度の対人戦による精神ダメージは生活に悪影響を与えることもあります。

対人戦は数日に一回、数試合程度にとどめ、それ以外は「棋譜の検討」や「コンピュータ戦」、「タクティクスパズル」、「チェス本を読む」などでトレーニングしてみてはいかがでしょうか。

僕が考える最強のケア その 2

「散歩、体操、ストレッチなどで体を疲れさせて休む」

体を疲れさせると体は休もうとします。 休ませると心と体がリラックスします。
つまり「体力の回復」のついでに「精神ダメージの回復」が行われるって寸法です。

不思議なのですが、「精神ダメージ」はいくら受けても体はそれを回復しようとはせず、むしろ眠れなくなったり、いろんな思考・想像で頭が大爆走して吐き気したりと、どんどん酷くなっていきます。
しかし「体のダメージ」に関しては体はきちんと回復しようとし、なぜかあまり関係のない「精神ダメージ」まで回復してしまいます。

人体の自己修復機能の設計ミスに文句言っても仕方ないので、「精神ダメージ」を回復したい時は「体を疲れさせて休ませる」という方法を取るのが効果的だと思います。

僕が考える最強のケア その 3

「何もしない日を定期的に作る」

毎日活動的に時間を使うのではなく、テレビを見る、ネット動画を見る、マンガを読む、映画を見るなど受動的なことしかしない日を定期的に作ると「やる気」が充実してきます。

ポイントはあくまで「受動的」な行動であることです。
僕の経験上、ビデオゲームなどは「能動的」なのであまり「やる気の充填」ができないような気がします。 (好きなんだけどなぁ・・・。)

なので、定期的に「チェスの研究もトレーニングも一切しない日」を作ってみてはいかがでしょうか。

メンタル 4 : 自己効力感とモチベーション

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「自己効力感」というのは「自分でもできる!」って感覚のことです。
「自分でもできる!」って感じると、それをやりたくなります。 なのでそれは「モチベーション」の原動力でもあります。

「自己効力感」を高める法則は以下の 4つです。

達成体験 実際に自分がそれを成し遂げたという経験です。 ただし、失敗経験は「自己効力感」を下げます。
代理経験 他人がそれ成し遂げたところを見て「自分にもできるかも!?」と思うことです。
言語的説得 「君ならできるさ!」と誰かに励まされることです。 意外と効果は薄いです。
生理的情緒的高揚 たとえそれができなかったとしても、「うん、思ったより緊張しなかったかも♪」という感覚的な経験です。

これらをチェスのモチベーションアップに置き換えると以下のようになります。

達成体験 自分が勝った経験。 (ただし、負けた経験はモチベーションが下がる・・・)
代理経験 他人が勝ったゲームを見る。
言語的説得 すっごく強い人に「君なら勝てるよ!」と言ってもらう。
生理的情緒的高揚 * 負けても「うん、思ったより落ち着いてできた」と思う。

この中で 2つ目の「他人が勝ったゲームを見る」というのはとても面白いと思います。
チェストーナメントのライブ中継や「YouTube」「Twitch」などでのチェスの対戦実況動画、ネット対戦サイトでの他人のゲームの観戦などは、チェスのモチベーションアップにとても有効ということなのです。
ってなわけで、それができるサイトのリンクをリストにしてみます。

  • ChessBom : トーナメントのライブ中継サイト。
  • Chessgames.com : たまにライブ中継する棋譜データベースサイト。
  • ChessNetwork : 有名なチェスのユーチューバー。
  • Twitch - Chess : Twitch の Chess のカテゴリ。
  • Chess.com : 有名なチェスの SNS サイト。
  • lichess : 有名な無料対戦サイト。
  • Shinya Kojima : 日本のエース小島慎也さんのブログ。 小島慎也さんの海外での対戦などが楽しめる。

世界チャンピオンがグランドマスター達を倒すのを見て、「グランドマスターくらいならオレでも倒せるかも♪」と思ってみるのもいいかもしれません。

メンタル 5 : 負けた悔しさと記憶力

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僕の読んだ本によると、感情や本能に関する体験は強烈な記憶として残るらしいです。

ってことは、「ぢっぐじょおおおお! あそこさえミスしなければ負けなかったのにぃいいいい!」という経験はその時の負けパターンを強く記憶でき、次回のゲームから事前に気付きやすくなるということです。
負けた後すぐ、「悔しさ」が残っているうちにゲームを振り返ることが大切ということです。

「じゃあ、勝ちパターンは?」っとなりますが、記憶は「負けパターン」だけで十分です。
それよりもその「負けパターン」を相手に押し付けるトレーニングが大事です。 そしてそれは「ネット対戦」がメインの人間にとって意外と難題です。

「負けパターン」は言い換えると「相手の勝ちパターン」です。
ネット対戦で顔の見えない相手に負けた時、その相手のことがめちゃくちゃ嫌いになります。
そしてその「めちゃくちゃ嫌いな奴」の戦法を使うことに抵抗感が出てきます。
そして「オレはあいつとは違う! オレはオレのやり方で戦う! オレはあいつみたいにはならない!」となって強くなるチャンスを棒に振ります。
これでは強くなれません。

少し話はそれますが、オープンソースゲームに「NetHack」という古いローグライクゲームがあります。
そのゲームでは主人公はモンスターの死体を食べて耐性や特殊能力を得ます。 死体はとても不味いそうです。

何が言いたいかというと、自分も「NetHack」の主人公になったつもりで「敵を食べて強くなる」という設定にすれば、「相手の勝ちパターン」を使うという行為にもカッコよさを感じるのではないかということです。
自分設定は、人に言わなければ、中二病ではありません。

メンタル 6 : スキーマと棋譜の検討

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「スキーマ」とは知識のまとまりのことです。
さらに「スキーマ」は「フレーム」「スクリプト」という 2つの種類があります。

フレーム 「A ならば B である」「B ならば C である」みたいな形で連なった静的な知識のまとまり 。 (What)
スクリプト 「A して B して C をする」みたいに手続きで連なった動的な知識のまとまり。 (How)

チェスでいうなら以下のようになります。

フレーム 駒の配置パターンとその戦略的意味に関する知識。
スクリプト ある局面でどういう手順で何ができるのかという戦術パターン。

そしてチェスでは、それら「スキーマ」の量が強さに大きく影響しているのじゃないかと僕は思います。

チェスの「スキーマ」を効率よく増やす方法が「棋譜の検討」だと思います。
「棋譜の検討」は、先ず棋譜を用意してゲームを再現しながら、気になる局面で以下のことをします。

  • その局面における様々な戦略的意味を発見し、感想を考える。
  • その局面からどういう手順があるのかを、実際に駒を動かしてみて発見し、その感想を考える。

将棋や囲碁のプロの世界では「研究会」というプロ棋士の集まりがあって、そこで棋譜の検討をし、お互い感想を言い合って勉強するシステムがあるそうです。
このシステムはそのままチェスにも流用できると思います。

もしリア充なら友達や恋人と「楽しい研究会」ができるでしょうが、僕のように「そんなの一生ムリ(涙)」な人もたくさんいると思います。
美少女フィギュアと会話するという方法もありますが、僕の持っているフィギュアはモンスターハンターの「ラギアクルス亜種」「ブラキディオス」、シュライヒの動物フィギュアなので喋れません。
そういう場合はオープンソースのチェスエンジンを使うといいと思います。
先ず自分で感想を考え、エンジンにも計算をしてもらい、自分の感想エンジンの計算結果を照らしあわせてその感想を考える・・・といった感じで使えると思います。

僕のお薦めのチェスの GUI とエンジンを紹介します。

  • Scid vs. PC : 僕が愛用しているデータベースソフト。 エンジンで分析したり、棋譜にコメントを書いたりできる。
  • XBoard / WinBoard : オープンソースの GUI。 Windows用は「WinBoard」という名前。 エンジンとの対戦やエンジン同士のトーナメントを開くことができる。 僕は自作エンジンのテストに利用している。 Linux で UCI エンジンを使う場合は、「Polyglot」というソフトも必要。 デフォルトで「FairyMax」っていう約 700行程度のコードしかないくせに何故かやたら強いというムカつくエンジンが付属している。
  • Sayuri : 僕の自作チェスエンジン。 あの「いちゃLove❤チェス漫才!!」女主人公。 プロトコルは UCI。
  • Stockfish : 世界最強のオープンソースチェスエンジン。 こちらも「いちゃLove❤チェス漫才!!」絶賛出演中。 プロトコルは UCI。

これらを使ってチェスエンジン達と「楽しい研究会・・・(涙)」を開いてみてはいかがでしょうか。


まとめ

「自己一致」「劣等コンプレックス」「防衛機制」「フラストレーション耐性」「自己効力感」「感情と記憶」「スキーマ」など、心理学はチェスに使えそうな理論がてんこ盛りです。
他にも探せばたくさん出てくると思います。

ちなみに僕が読んだ心理学の本は以下のものです。

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