チェスわくわく戦略入門_logo

「チェスわくわく戦略入門」は、ルールを覚えたての初心者に「戦略(ストラテジー)」を簡単に紹介する入門教室です。

第5回は
「オープニングの戦略」
です。

オープニングとは

「オープニング」とはチェスの序盤のことです。

チェスは一度有利不利に差がつくと、どちらかがミスをしない限りその差が広がり続けます。
なので、「オープニング」で大事なのは、少なくとも互角の状態を維持することです。

さらに、「オープニング」はミスの宝庫でもあります。
ベテランでも慎重にならないと思わぬミスをして、最初の数手で負けてしまうことが良くあります。
ただ、こればかりは「経験」以外の解決法はありません。 何度もミスをして一つずつ覚えていくしかありません。

センターのコントロール

オープニングでは「センターのコントロール」はとても大事です。

序盤で最も活躍する駒は「ナイト」「ビショップ」です。
そして、それら「マイナーピース」は「センター」を利用することで「モビリティ」を上げ、様々な戦術を実行します。
逆に言うと、相手のマイナーピースの動きを封じ、「互角の状態を維持する」のに最も有効なのが「センターのコントロール」ということです。

center_control

センターのコントロールが最も得意な駒は「ポーン」です。
ポーンを使えば相手のマイナーピースはしばらくの間「センター」を利用することができません。
なので、「センターのポーン」は「オープニングの鎧」と考えるといいと思います。

pawn_center_control

オープンポジション

「オープンポジション」とは、両者のセンターのポーンが交換されチェス盤上からいなくなっている状態の駒の配置です。

open_position

「オープンポジション」は「マイナーピース」だけでなく、「ルーク」「クイーン」といった「メジャーピース」も早くから活躍できるので、最もミスしやすく一手一手時間をかけて慎重に考えなくてはいけない駒の配置です。
逆に言うと、「オープンポジション」が上手くなると、相手に先にミスをさせ勝つことができるようになります。

クローズドポジション

「クローズドポジション」とは、両者のセンターポーンがセンターでガッチリ組み合って動けなくなってしまっている駒の配置です。

closed_position

この状態でやれることはかなり少ないので、「いきなり勝敗が決まる」ということはほとんどありません。
この状態でやれる戦略は主に以下の 2つになります。

  • 両サイドを突破して敵陣に侵入。
  • 「センターの隣の列のポーン」を使って相手のセンターのポーンを崩す。(「ポーンブレイク」)

flank_attack
pawn_break

マイナーピースの展開

「展開」とは、駒を初期配置の状態から動かして、戦場に配置することです。

オープニングではポーンの数がとても多いので、ポーンが多くても比較的に動ける「ナイト」「ビショップ」を展開することが大切です。
「センターを攻撃する」感じで展開すると効果的です。

development

「展開」の注意点は、「各駒を 1回ずつ動かす」ことです。
「展開」はスピードが大事です。 少ない手数で多くの駒を展開するには、同じ駒を複数回動かすより、1手ずつ複数の駒を動かした方が効率的です。

tempo

キャスリング

オープニングで「キャスリング」を使って「キングの安全策」と「ルークの展開」を同時に行うことはとても重要です。

castling

「キャスリング」で最も大切なのは「タイミング」です。

  • 「オープンポジション」ではできるだけ早くキャスリングをする。
    • 「クローズドポジション」では急ぐ必要はありません。

castling_timing_1

  • ある程度の「センターのコントロール」と「マイナーピースの展開」をしてからキャスリングをする。
    • 先にキャスリングをしてしまうと相手との「モビリティ」に大きな差ができてしまう。

castling_timing_2

  • 相手の「クイーン」のいない方にキャスリングする。
    • クイーンの「縦攻撃」がキングにとって最も危険だから。

castling_timing_3

  • 相手の「クイーン」がいない場合はキャスリングしなくてもいい。
    • 相手のクイーンがいない場合は、自分のキングは十分安全なので、キャスリングの目的は「ルークの展開」のみになる。

castling_timing_4

最初の数手

チェスでは「定跡」というオープニングでの手順パターンというのがあります。
もちろん「定跡」は無視してもゲームはできますが、「何を指していいのか分からない」時は、「定跡」は最良のヒントとなってくれます。

「定跡」はものすごい数あります。 ここでは「僕の経験」を元に、中級者までがインターネットチェスでよく使用する定跡を紹介します。
より詳しくたくさんの「定跡」を知りたい方は Chessgames.com の Opening Explorer を参考にするといいと思います。

基本形

定跡ではありませんが、よく出てくるパターンです。 この形から多くの定跡に進化します。

1. e4 e5
2. Nf3 Nc6

opening_base

フィリドール・ディフェンス (Phiidor Defense)

マスタークラスのゲームではあまり出てきませんが、中級者クラスではよく出ます。

1. e4 e5
2. Nf3 d6

philidor

ルイ・ロペス (Ruy Lopez)

白が最速でキャスリングできる定跡です。

1. e4 e5
2. Nf3 Nc6
3. Bb5

ruy_lopez

「黒の c6 のナイト取られたら e5 のポーンヤバくね??」と思われると思いますが、以下の手順で取り返すことができます。

1. e4 e5
2. Nf3 Nc6
3. Bb5 a6
4. Bxc6 dxc6
5. Nxe5 Qd4
6. Nf3 Qxe4+

ruy_lopez_Bxc6

イタリアン・ゲーム (Italian Game)

これも定跡とは少し違いますが、よく出てくるパターンです。 白のビショップが黒の f7 を狙っているのがポイントです。

1. e4 e5
2. Nf3 Nc6
3. Bc4

italian_game

ツーナイツ・ディフェンス (Two Knights Defense)

イタリアンゲームからの進化形です。 黒もキャスリングの準備をします。

1. e4 e5
2. Nf3 Nc6
3. Bc4 Nf6

two_knights

次に白が「Nc3」としてきた場合、黒は白をちょっとだけビビらせることができます。

1. e4 e5
2. Nf3 Nc6
3. Bc4 Nf6
4. Nc3 Nxe4
5. Nxe4 d5

two_knights_fork

黒にとっての「ツーナイツ」の注意点です。 白が「Ng5」としてきた時の対処法です。

1. e4 e5
2. Nf3 Nc6
3. Bc4 Nf6
4. Ng5 d5
5. exd5 Na5
6. Bb5+ c6
7. dxc6 bxc6

two_knights_Ng5

シシリアン・ディフェンス (Sicilian Defense)

チェスのマスタークラスでよく出てくる定跡です。 この後白が「d4」とすると、オープンシシリアンと呼ばれる「マスタークラスがよくやる定跡」なのですが、中級者レベルだと白が「d4」をする確率は低くなります。

1. e4 c5
2. Nf3 d6

sicilian

黒にとってのポイントは、白のビショップが「c4」に来た時に自分の「f7」をいかに守るかです。 ここを守っておかないと、白の「f3」のナイトが「g5」に飛んできて酷い目にあいます。
「e7」のポーンを「e5」には進めず、「e6」に進めて守っておくといいと思います。

sicilian_weak_point

クイーンズ・ギャンビット (Queen's Gambit)

・・・ごめんなさい。 僕自身あまり「d4」で始まるゲームをしたことがないので、中級者レベルでどんな「d4」の定跡が出てくるのかよく知りません。 なので、「d4」は一つだけです。

最後の「c4」は「ギャンビット」と呼ばれる「ポーン」を犠牲にする手です。
黒の「d5」のポーンは黒の「最強のポーン」なので、それを外にずらすのはとても効果的です。
(同じ理由で、白の「d4」のポーンを黒の「c5」で外にずらすのも効果的です。)

1. d4 d5
2. c4

queens_gambit

キングス・ギャンビット (King's Gambit)

この定跡は「初心者キラー」です。 「中級者の白」が「初心者の黒」を秒殺するのに使われます。
ただし、白は「黒のクイーン」の動きに注意が必要です。

1. e4 e5
2. f4

kings_gambit

「初心者の黒」へのアドバイスですが、すぐに白の f4 のポーンを取ってはいけません。
以下の手順で辛抱すると秒殺されにくくなります。

1. e4 e5
2. f4 Bc5
3. Nf3 d6

kings_gambit_Bc5

序盤メイト

チェスの最短メイト手順は「2手(4プライ)」です。
要するに、序盤でも油断をしているとあっという間にチェックメイトされてしまうということです。

ここで有名な「序盤のチェックメイト」を紹介します。
どれも重要なポイントは「白の f2」「黒の f7」です。
実はこの位置、自分のキングしか守っておらず、「序盤の弱点」となっています。
序盤ではこの位置を常に意識しなくてはいけません。

weak_f_pawn

フールズメイト (Fool's Mate)

超有名な「最短メイト手順」です。

1. f3 e5
2. g4 Qh4#

fools_mate

スカラーズメイト (Scholar's Mate)

この手順、中級者でも狙ってくる人がいます。

1. e4 e5
2. Qh5 Nc6
3. Bc4 Nf6??
4. Qxf7#

scholars_mate

この手順のポイントは黒の 3手目「Nf6」が大悪手であるということです。 黒は 3手目は「g6」で防がなくてはいけません。 その後黒は「Bg7」「O-O」でフィアンケットとキャスリングを行い、白の攻撃を切り抜けます。
(「フィアンケット」というのは、「Bg2(Bg7)」や「Bb2(Bb7)」でビショップを 1手で対角線上に配置する手です。)

avoid_scholars_mate

レガルのメイト (Legall's Mate)

これはメイト手順というより、「クイーンを囮にしたトラップ」です。

1. e4 e5
2. Nf3 Nc6
3. Bc4 d6
4. Nc3 Bg4
5. h3 Bh5
6. Nxe5 Bxd1??
7. Bxf7+ Ke7
8. Nd5#

legalls_mate

この手順は黒が「f7」に注意をしていれば未然に防ぐことができます。


まとめ

チェスでは序盤の差で勝敗が決まってしまうことがよくあります。
序盤ではとにかく「互角の状態の維持」が大切です。

「オープニング」でのポイントは

  • センターのコントロール
  • マイナーピースの展開
  • キャスリング

です。

後は序盤メイトを防ぐために「白の f2」「黒の f7」を注意することです。

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